2018年4月24日火曜日

コーランの章句を無効化せよ:フランス著名人らの共同声明にイスラム教徒反発

先日、サルコジ元大統領をはじめとするフランスの著名人約300人が名を連ねる「新しい反ユダヤ主義に反対する声明」がフランス紙ル・パリジャンに掲載されました。

同声明は、近年の反ユダヤ主義を「静かなる民族浄化」であると告発し、これはイスラム過激派によって引き起こされたところが大きいとしています。

また同声明は、「我々の時代だけでも11人のユダヤ人が単にユダヤ人であるという理由だけでイスラム過激派に暗殺されている」とした上で、「イスラムフォビア(イスラム嫌い)」 だと批判されることを恐れてイスラム過激派による反ユダヤ主義の断罪を避けてきたメディアに対しても批判をしています。


ここでは2015年にシャルリーエブド襲撃と同じタイミングでユダヤ系スーパーマーケットが襲撃されユダヤ人4人が殺害されたことや、2017年に65歳のユダヤ人女性が「神は偉大なり(アッラーフアクバル)!」と叫ぶ隣人のムスリムによって窓から突き落とされて殺害されたことなどが言及されています。

その上で同声明はイスラム教における「神学の権威たち」に対し、ユダヤ人、キリスト教徒、不信仰者に対する殺害や処罰を示すコーランの章句を「無効化」し、イスラム教徒たちがコーラン章句にのっとって犯罪を犯すことのないよう指導すべきだと要求しています。


これに対し、パリ大モスクのイマームは「この声明はフランスのイスラム教徒に対する権利の侵害であり、他宗教間の暴力を増幅させるだけだ」と批判、フランスのイスラム教徒の大部分は共和国の理念に忠実に暮らしていると主張しています。

またイスラム教評議会議長は「こんな声明に何の意味もない」と一蹴。

ブリュドゥー大モスクのイマームは、「コーランは章句のひとつひとつ全てが聖なるものだ」と「無効化」について否定しています。

これらの言葉にみられるよう、イスラム教徒はコーランがアラビア語で下された神の言葉そのものであり、その全てが神聖不可侵であると信じています。

イスラム教の信仰というのは、それを正しいと信じるところから始まります。

ゆえに、「コーランのこの部分は現代社会の倫理にそぐわないから無効にしよう」という発想は根本的に存在しえません。

イスラム教徒の中にも「反ユダヤ主義はよくない」というこの声明の趣旨に賛同する人はいると思われますが、「だからコーランの反ユダヤ的章句を無効にしなければならないのだ」という一文に賛成する人はただの一人もいないはずです。

もしこれに賛成するイスラム教徒がいるとすれば、その人はイスラム教の教義上、もはやイスラム教徒ではないとみなされます。

というのも、神の言葉たるコーランに過ちがあるとみなすことは、それを啓示した神が過ちを犯したとみなすことになるからです。

イスラム教において神は全知全能にして絶対善であるとされています。

イスラム教徒であることと神の言葉たるコーランを絶対視することとは同義なのです。

この声明には、カトリックの総本山たるバチカンも聖書の過ちをみとめ反ユダヤ主義と決別したのだから、イスラム教も同じようにすべきであると記されています。

しかし、これは論理として全く成立していません。

いくら声明に名を連ねているのが著名な「セレブたち」だとはいえ、イスラム教徒はこんなことを言われたところで反発するだけで、「反ユダヤ主義」を食い止める効果など全く期待できません。

フランス流の世俗主義、多宗教共存にきしみが生じてきた原因の一端はフランスの支配層に広く見られる「イスラム教の論理」に対する無知にあり、また近い将来このきしみが緩和される望みも薄いだろうと改めて思わされた事案でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿