2018年4月18日水曜日

イスラム社会における働き方改革

「イスラム社会における働き方改革」というテーマで原稿を、と依頼されたので、以下のような文章を寄稿しました。

モロッコの田舎の郵便局で自分宛の荷物を受け取るためだけに丸一日費やしたこと、同じくモロッコで学生ビザ更新の手続きに警察署長のサインが必要だったため警察署に通い詰めたがサインをもらえるまでに一ヶ月かかったこと、エジプトの悪名高き政府庁舎モガンマアで日常的に繰り広げてきた常時不在の担当者との飽くなき戦い、同じくエジプトのプレスセンターで手続きを急ぐこちらをよそに職員のほぼ全員がFacebookに熱中していたある意味壮観な様…。

当時はそのたびに「私の貴重な時間を返せ!」とイライラしていたものですが、今思うと貴重な経験をさせていただいていたのかもしれない。

いや、そうにちがいない。

(以下寄稿文。リンクはこちら。)

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働き方改革が求められているのは日本だけではありません。

イスラム教徒が多数をしめる社会においても、様々な側面から働き方改革の必要性が訴えられています。

イスラム教徒を雇用する側にとって悩ましい問題のひとつが、労働時間内に礼拝を認めるべきか否か、認める場合にはどの程度の時間が妥当か、というものです。

というのも、イスラム教徒は1日に5回礼拝することが宗教上の義務とされているものの、度を越した「長時間礼拝」による労働生産性の著しい低下がしばしば確認されるからです。

たとえば労働時間が9時から17時までとすると、5回の礼拝のうち概ね2回はそのタイミングと労働時間が重なります。

労働時間が11時半から19時半の場合、場所や日によっては4回の礼拝のタイミングがその時間内におとずれます。

仮に1回の礼拝ごとに15分の休憩を認めるとしても、4回ともなれば1日合計1時間は礼拝休憩に当てられることになります。

これは軽々に判断できる問題ではありません。

エジプトの人材育成組合の調査によると、エジプトの公務員の基本労働時間は7時間ですが、実際に仕事をしているのはわずか30分程度にすぎないとのこと。

同調査によると、エジプトはこれでもまだましなほうで、アラブ諸国の公務員の実質労働時間は1日平均18分から25分だそうです。

おそるべき生産性の低さです。

いや、これは生産性以前の問題です。

さらに驚くべきは、エジプトをはじめとするアラブ諸国の公務員数の多さです。

エジプトの人口は9500万人ほどですが、公務員は約700万人います。

国民の8人に1人ほどが、実際は30分しか仕事をしていないにもかかわらずフルタイム労働をしている体裁で国庫から給与を得ているとしたら、真面目に働くのがバカらしく思えるのも当然です。

この原因のひとつとされているのが「長時間礼拝」です。

エジプトでは役所に行った際、担当者が礼拝に行っているという理由で無期限待機を言い渡されることは稀ではありません。

私企業においても状況は似たり寄ったりです。

礼拝に行くと言ったまま1時間たっても戻らない従業員を探しに行ったところ別の部屋で昼寝をしていた、などという事例は、ごくありふれたものです。

この「長時間礼拝」問題解決に立ち上がったのは、宗教界です。

エジプト出身の著名なイスラム法学者であるユースフ・カラダーウィー師は、「イスラム教徒であっても仕事中は仕事に集中すべきであり、職場での礼拝は簡略化し、長くても10分以内に終わらせるべきである」という宗教令を発行しました。

カラダーウィー師は暗に、礼拝を口実に仕事をサボる人のことを戒めているわけです。

その証拠に同師は、職場には礼拝前の浄めが簡単にできるような服装をして行くべきだ、などともアドバイスしています。

礼拝には様々な作法があるのですが、たとえば礼拝前の浄めを行うためにわざわざ遠方の水場まで出かけたり、礼拝中にわざわざ気の遠くなる程長いコーラン章句を暗誦したり、さらには前にやりそこなった礼拝を今やりなおそう、などと始めたりすると、それこそいくら時間があってもたりません。

しかし宗教界も、「長時間礼拝」禁止で足並みが揃っているわけではありません。

サウジアラビアの法学者スィルミー師はカラダーウィー師の法令に対し、「礼拝とはそもそも長時間かけて行うべきものであり、10分以内に済ませろなど言語道断」と反論しています。

イスラム社会の働き方改革も道のりは険しそうです。



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