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2019年10月29日火曜日

テロリスト称賛を隠しきれない人たち

2019年10月27日、アメリカのトランプ大統領によってイスラム国指導者バグダーディーの死が発表されました。

トランプ氏はバグダーディーの死で「世界はより安全になった」と主張しましたが、本当にそうなのか、彼はどのような立場にあり、彼の死はイスラム国や世界にどのような影響を与えうるか、トルコはテロ支援国家なのかといった問題については、FNNに寄稿したこちらの記事をご覧ください。

それとは別に、どうしても記しておきたいことがあったため、久々にブログに書くことにしました。

それは、バグダーディーの死により、イスラム過激派テロリストへの称賛を隠しきれないメディアや専門家の「本音」が露呈された、という事実です。

まずはこちら、ワシントン・ポストの記事です。

 バグダーディーのことを「厳格な宗教学者」と描写しています。

テロリストでも過激派でも大量殺人犯でもレイプ犯でもなく、「厳格な宗教学者」です。

日本人2人を含む多くの人を残虐なやり方で斬首したのも、ヨルダン人パイロットに生きたまま火をつけて焼き殺したのも、多くの同性愛者を高い建物から突き落として処刑したのも、ヤズィーディー教徒の女性たちを性奴隷にしたのも、キリスト教徒をズィンミーという地位に貶めたのも、「不信仰者」や「背教者」数万人の命を奪い、家族を奪い、故郷を奪い、破壊し尽くしたのも、全部イスラム国です。

ワシントンポストがその指導者であるバグダーディーを「厳格な宗教学者」と讃えるのには、理由があります。

ワシントンポストは、イスタンブールでサウジの手により殺されたカショギがコラムを書いていた新聞です。カショギは、サウジやエジプトがテロ組織指定しているムスリム同胞団と深いつながりのあった人物です。

ムスリム同胞団は、民主主義をツールとして利用することによってイスラムによる世界征服という目標を達成すべく活動している世界最大のイスラム組織です。

こうした動きは「政治的イスラム」と呼ばれ、ムスリム同胞団の現在の最大の支援者であるトルコのエルドアン大統領がその急先鋒です。

ワシントンポストはカショギ殺害後、カショギの遺志を継いだ報道を続けると宣言しました。

ムスリム同胞団同様、イスラムによる世界征服実現を目指し「立派に殉教」したカリフ・バグダーディーを「厳格な宗教学者」として讃えるのは、カショギの遺志の継承者としてこれ以上ないほどふさわしいふるまいだと言えます。

なおトランプ大統領は、ワシントンポストをかねてより「フェイクニュース」と批判しており、先日アメリカ当局は政府機関に同紙の購読契約の更新をしないよう通告しました。

次はイギリスの、ザ・タイムズ。


バグダーディーは「有望なサッカー青年でありコーランを学ぶ学生だった」そうです。

バグダーディーの死は、ザ・タイムズにとってよほどショックだったことでしょう。

同様の記事はBBCインドにも。


サッカーのスター選手だったことだけではなく、子供や囚人にもコーランを教えていた、とのこと。

うーん、文武両道、実に素晴らしい「厳格な宗教学者(byワシントンポスト)」ですね。

次はブルームバーグ。

 
「無名のコーラン朗唱者からシリアとイラクを支配する主体の統治者へ」と、まあみなさん、よっぽどバグダーディーの「立身出世」にご執心のようです。

次はロイター。



バグダーディーは「転落」したということは、それ以前はよほど素晴らしい地位にあったという認識のようです。

次にパキスタンの政治家。


アメリカ大統領の発表は信じないけど、イスラム国の公式発表は信じるそうです。

最後に日本人研究者。
「社会科学に基づいたきっちりとした研究」をしないと、バグダーディーやビンラディンを否定してはいけないそうです。

また、「歴史的研究」をしないと、イスラム国やアルカイダを否定してはいけないそうです。

テロリストやテロ組織への称賛を隠しきれず、むしろ本当は絶賛したいのだが理性でどうにかそれを抑えている、といった言説は、実はメディアにも研究者にも多く見られます。

バグダーディーの死は、彼らが本音をさらけ出す契機となったという意味で、私にとっては極めて重要です。

一般に、イスラム過激派や政治的イスラムを擁護したり、それらを批判する人に対し「ヘイトだ!」とレッテルを張りその発言を封じ込めようとするメディアや人物は、左派的傾向にあります。

左派とイスラム過激派、政治的イスラムは、今ある世界の秩序やルールを全て破壊しなければならない、という信念を持っている点で一致しています。

だから西洋の左派は「リベラル」を自称しつつ、イスラム世界の「リベラル」ではなく、イスラム過激派や政治的イスラムに接近し、「ハマスやヒズボラは左派の仲間だ」と臆面もなく発言したりするのです。

その様については、中東協力センターニュースに寄稿したこちらの記事に記しました。

イスラム国やアルカイダなどのイスラム過激派やムスリム同胞団などの政治的イスラムが目標としているのは、もちろん、イスラムによる世界征服です。神の法であるイスラム法によって全世界を統治するため、彼らはジハードを続けています。

左派が今ある世界の秩序を破壊した後、何をもたらそうとしているのかは私にはわかりません。一部の人が富と権力を独占し、その他大勢を「平等」の名の下に統治するソ連のような体制でしょうか?

私はメディアや研究者の世界に深く刻み込まれたこうした破壊イデオロギーに対し、甚大な危惧を抱いています。

2019年3月13日水曜日

「敗北しても勝利」:イスラム国最後の拠点の内部映像が語る「イスラム教の論理」

2014年にシリアとイラクにまたがる地域を制圧し「カリフ制」再興を宣言したイスラム国は現在、シリアで支配していた最後の拠点バーグーズ陥落の瀬戸際に瀕しています。

アメリカに支援されているシリアのクルド人を中心とする武装組織SDFに包囲されて以来、バーグーズからは多くのイスラム国戦闘員やその家族らが投降してきました。

彼らが拘留されているキャンプには世界各国から多くのメディアが取材に訪れ、15歳の時に自らイスラム国入り「イスラム国花嫁」となったイギリス人シャミーマをはじめとする、多くの「イスラム国花嫁」やその子供たちが「発見」され、報道されました。

メディアはまた、「イスラム国花嫁」のほとんどがイスラム国入りしたことを後悔したり反省したりしていないばかりか、「イスラム国は永遠なり!」「アッラーフアクバル(神は偉大なり)!」と叫んだり、「イスラム国こそ私たちの居場所。カリフ様が出て行くように言わなければ留まりたかった」と主張したりすることを、驚きをもって報道しています。

「イスラム国に行く人は洗脳されているに違いない」としか考えられない日本や西側諸国のメディアの人たちは、こうした女性たちを目の当たりにしてなお、「戦争や殺戮や飢えなど大変な目にあってきただろうに…いやー、洗脳って本当に強力」と、洗脳説から脱却できないようです。

しかし何をもって洗脳とするかについて議論しても不毛なのでしませんが、彼女らはイスラム国こそ真に正しいイスラム教の実践者なのだと信じているのです。

拙著『イスラム教の論理』にも記したように、伝統的なイスラム教の枠組み内では「イスラム国のイスラム教解釈は間違っている」と主張することはできても、それは「イスラム国のイスラム教解釈は正しい」という主張と同程度の価値しか有しません。

どのイスラム教解釈が正しいかを判断することができる人も組織も制度も、伝統的なイスラム教の枠組み内には存在しないのです。

話をシリアに戻しますが昨日、陥落間近のバーグーズの内部映像をイスラム国が公開しました。

コーラン章句を朗々と暗誦するこの戦闘員は、「なぜわずかな領土しか持たない我々を殲滅しようと世界中の不信仰国家がここにやって来て、そして我々を包囲するのか?それは我々が神の法の適用を意図したからだ!」と主張します。


世界のどこにもコーラン、神の法に基づいて統治を行う集団は我々イスラム国をおいて他にはない、そして我々は殺されたとしてもそれが勝利なのだ、と得意満面です。

彼は、自分たちは「この世(現世)の基準」ではなく「 あの世(来世)の基準」即ち、「神の基準」で生きているのだと強調します。

そして「この世の基準」では我々が殺され、焼かれたとしたら、それは我々の敗北だとみなされるだろうが、「神の基準」では我々は天国に迎えられるのであり、それは勝利なのである、とコーランを引用しつつ説明します。

全ては神の手中にあるので我々は忍耐する、この世で我々の道が閉ざされ包囲されても神への道は開かれている、勝利は神と神の使徒ムハンマドを愛する者の手に約束されている、勝利は近い、と訴えます。

このシャイフ風の人も、「我々は神の法(シャリーア)による統治を行っているからこそ攻撃されているのだ」「いくらここで我々の領土が狭まろうと神の勝利は近い」と主張します。

 この覆面戦闘員も、「我々はこの戦闘で敗北しても勝利する。もちろん勝利しても勝利である。だから恐れるな。飢えや欠乏を祝福せよ。神は信仰者に勝利をもたらす」と呼びかけます。


バーグーズ内部は車やバイクが行き交い、ベビーカーを押す女性や子供の姿も見られます。

イスラム法の秩序を街中で徹底させるヒスバによるパトロールも続けられています。

しつこいですが、イスラム国の人たちというのは、自分たちこそ最も正しく神の命令に従い神の法を適用していると信じている人々です。

彼らは、胡散臭いペテン師が自らの利益のためにあの手この手で弱者を洗脳して集めた集団ではありません。 

彼らのよすがは神の言葉であるコーランです。

そして彼らの目的はイスラム法による統治を世界中に拡大させることであり、その目的のために死ぬことは殉教であるとして全く厭いません。

なぜならイスラム教では、殉教者には天国、来世での救済が約束されているからです。

私たちの基準、私たちの価値観で彼らの考え、生き方を測っても、無意味なのです。

現在、SDFによって包囲され、間も無く陥落するであろうバーグーズの中にいるイスラム国戦闘員たちの言に耳を傾けることは、これから私たちがこうした人々とどう対峙していくべきかを考える上で非常に重要だと私は考えます。

2019年1月30日水曜日

2019年版「世界の脅威評価」とアジアにおけるイスラム過激派

ODNI(アメリカ国家情報官室)が2019年版の「世界の脅威評価」リポートを公開しました。

サイバー攻撃や大量破壊兵器等と並び「世界の脅威」のひとつとして取り上げられているのがテロリズムです。

テロリズムの第一に挙げられているのがスンナ派武装過激派であり、世界中に多くの組織を持つグローバル・ジハーディストは依然として世界の主たる脅威であり続けているとされています。

グローバル・ジハーディストを束ねる二大組織として挙げられているのが、イスラム国とアルカイダです。

両者の世界的な勢力拡大の実態は以下の地図に示されています。


斜線で示されたトルコ、エジプト、リビア、アルジェリア、マリ、ソマリア、イエメン、アフガニスタン、パキスタン、バングラデシュといった諸国にはイスラム国とアルカイダの両勢力が存在し、多くの場合両者は直接戦闘し牽制しあっています。

興味深いのは、シーア派が大多数を占めるイランがアルカイダの活動地域として明確に図示されている点です。

アルカイダの指導層がイランに潜伏し影響力を強めていることは、既にアメリカ政府や国連も指摘しています。

 イスラム国は領土を大幅に失った現在もイラクとシリアに数千人の戦闘員を擁し、世界中に8支部、10以上のネットワーク、数千人以上の支持者を保持し、依然として中東及びアメリカを含む西側諸国に対する攻撃を続けるだろうと予測されています。

またイスラム国はスンナ派イスラム教徒の抱える不平不満を吸収し社会的な不安定さを利用することによって、将来的にはイラクとシリアに再び広大な領土を獲得することを目指すだろうとも予測されています。

アルカイダについては、世界に広がるネットワークの指揮系統構造を強化しアメリカを含む西側諸国への攻撃の呼びかけを続けているものの、ここ数年その攻撃は国外の権益に対するものに限定されており、今後もその傾向は続くのではないかと予測されています。

またアルカイダの支部の中ではイエメンを拠点とするアラビア半島のアルカイダ(AQAP)、北アフリカとサヘル地域を拠点とするイスラムマグレブのアルカイダ(AQIM)が特に強大化しており、いずれも反政府武装闘争を展開しつつ「安全地帯」と資源を保持し、地域におけるアメリカの権益への攻撃の機会をうかがっているとされています。

2018年にジハード主義者が特に勢力を拡大させた地域としては、アフリカとアジアが挙げられています。

マラウィを占拠して半年以上フィリピン軍と攻防戦を繰り広げ今も各地でテロを実行しているフィリピンのイスラム国、幼い子供を含む家族全員による自爆テロを連続的に実行したインドネシアのイスラム国など、アジアでのイスラム過激派の「活躍」は世界的に見ても顕著なものとなっています。

この後に及んでなんですが、「アジアのイスラム教徒は穏健だ」という思い込みはイスラム過激派には一切当てはまりません。

イスラム国家樹立を目指し武装して国軍と直接戦闘を繰り広げたり、あるいはテロ攻撃を実行したりするという点において、アジアのイスラム過激派は中東やアフリカのイスラム過激派と違うところは全くありません。

また国境を越えてグローバルに「活躍」するという点においても、皆等しく共通しています。

マレーシアのテロ対策部門長によると2013年から2018年までに同国でテロ容疑で逮捕されたのは445人であり、そのうち4分の1以上を占める128人が外国人だったとのことです。

テロ容疑で逮捕された外国人のうち最も多いのがフィリピン人で46人、次がインドネシア人で35人となっています。

タイやシンガポールといった東南アジア諸国の当局もイスラム過激派とテロに対する警戒を強化しています。

イスラム過激派やテロといった脅威はもはや、中東やアフリカといった日本から「遠い」世界だけのものではなくなっているということを、多くの事件や統計、情勢分析が指し示しています。

2019年1月29日火曜日

「イスラム教の宗教改革」について考える

エジプト当局がイスラム教の宗教改革に向け新たな一歩を踏み出しました。

国内外のイスラム教指導者のトレーニング施設、その名も国際ワクフ・アカデミー(IAA)の新設です。

エジプトのシシ大統領はかねてより、イスラム教を近代に調和させるために、イスラム教の諸概念を再定義し、それによってイスラム教についての言説を刷新しなければならないと主張してきました。


また早期・具体的にそれに着手するよう、エジプトの二大宗教権威であるアズハルと宗教省に再三要請してきました。


 IAAはエジプト宗教省主導のプロジェクトです。

オープニング式典でエジプトの宗教大臣は、「IAAはイスラム教についての言説刷新への呼びかけへの第一歩」であり、それは「イスラム教の知的閉塞と過激派に立ち向かう」ためであると述べました。

これは、IAAを拠点にイスラム教の宗教改革を行っていくという宣言だとも解釈できます。

式典に参列したドイツのミュンスター大学イスラム神学センター長もこれを、「イスラム的啓蒙を促進する上で非常に重要な第一歩」だと評価。

同アカデミーは、穏健なイスラム教のイデオロギーを広め、イスラム教についての言説の刷新に貢献し、多くのヨーロッパのイスラム教指導者をトレーニングすることになるだろうと期待を表明しました。

エジプト宗教省報道官によるとIAAは、

1)シシ大統領の「イスラム教についての言説を刷新せよ」という要請に応えるためのプロジェクトの一環
2)イスラム教についての誤解の払拭を目指す
3)国内外の男女のイスラム教指導者に対し6ヶ月間のトレーニングを施す
4)カリキュラムは啓蒙された科学的なもので、宗教(イスラム教)だけでなく経済、政治、心理学などの講義も含まれる

といった特徴を有し、ここで訓練を受けたイスラム教指導者は

1) イスラム教についての穏健かつ新しい展望
2)イスラム教のイメージをよくするための方法論
3) 過激派やテロを促すイデオロギーを否定するための方法論

などを身につけることが期待されているとのこと。

多くの人が誤解しているのですが、拙著『イスラム教の論理』にも記したように、現代のイスラム教指導者は、

「イスラム教の価値観は近代の価値観と矛盾する」

ことを認識しています。

イスラム教は神が創った神中心の規範ですから、人間が創った人間中心の規範を旨とする近代と矛盾するのは当然であり、イスラム教が比較するまでもなく近代より優れた規範であるのも当然です。

イスラム教は近代的だから素晴らしいのではなく、近代などというものをはるかに超越しているからこそ素晴らしいのです。(ゆえに、イスラム教は近代と矛盾するという私の指摘に対して「ヘイト」だと罵ることは見当違いも甚だしいのです。)

問題は、その先です。

エジプトの場合、政治権力者であるシシ大統領は、「だからイスラム教を近代に合うように改革しなければならない」と主張しています。

一方、イスラム教の研究・教育の殿堂であるアズハルは、シシ大統領の言い分は理解できるので妥協できるところは妥協するが、だからといってイスラム教の伝統全てを一掃するわけにはいかない、という立場です。

イスラム国は悪だが反イスラムだとは言えない、といったアズハル総長の発言は、伝統的なイスラム教の論理に則れば実にイスラム的に正しい発言ではあるのですが、シシ大統領はこれを煮え切らない態度とみなしイライラしてきた節があります。

実は今回の宗教省によるIAA新設の直前に、アズハルも自前のイスラム教指導者訓練所を新設しています。

ただしアズハルの方はイスラム教についての訓練のみで、政治・経済といった他分野の訓練は行われません。

IAAの講師陣にはアズハル教授らも含まれ、表面的には両者が対立しているわけではありません。

ただこれまでの経緯からは、エジプトが宗教省主導ですすめようとしている宗教改革がイスラム教の伝統をバッサリ切り捨て近代との調和を主目的にしている以上、アズハルと協調路線を取るのは難しいように思います。

IAAの試みについはサウジ当局も支援・協力を表明してはいますが、やはり世界中の全イスラム教徒の多くが賛同するとも考えにくいのが実情です。

なぜならイスラム教というのは神の啓示を字義通り虚心坦懐に受け止め、神の啓示に示された神の規範に従って生きることが神の奴隷である人間の務めであるという信念を根幹とする宗教だからです。

神の啓示・規範を、人間の生み出した「近代」という価値に適合するように解釈し直すことは、イスラム法の方法論を駆使すれば可能ではあります。

というか、この世に存在するほぼ全てのもの・ことについて、イスラム的に合法だと判断したければ判断できるし、違法だと判断したければ判断することができるという、イスラム法にはそうした側面があります。

この方法論を生み出してきたのは歴代のイスラム法学者たち自身ですが、彼らはそうした「禁じ手」を使うことに対して極めて謙抑的でした。

やろうと思えばできることを彼らがしてこなかったのは、そこに神への畏怖、自戒の念があったからに他なりません。(なお、これは私の博士論文のテーマでした。)

アズハルがシシ主導の宗教改革に及び腰である理由もまた同じです。

またいくらイスラム法の方法論上イスラム教を近代に調和させることが可能でも、それ以外の、啓示の文言に忠実で近代に調和しないイスラム教解釈を不正として禁じることは、イスラム法の枠組み内では不可能です。

それは国家権力を動員しなければできないことであり、この国家権力自体が啓示に忠実なイスラム教解釈上不正と見なされることは指摘しておく必要があるでしょう。

要するに、宗教改革によって過激派を抑え込むというのは斬新で抜本的な方策であるように見えて、実は国家権力の動員によって過激派を抑え込む従来のやり方と本質的に同じなのです。

果たしてこの試みが、イスラム教のイメージをよくしイスラム過激派を抑え込むという目的の達成にどの程度貢献することになるのか。

100年後くらいにようやく見えてくるものがあるような気がします。

2019年1月25日金曜日

カナダ人医師のソマリアでのジハード

イスラム国ソマリ州がソマリアでジハードをし殉教した戦士たちを紹介する動画を公開しました。

その中の一人にドクター・マジャルテイニーと称されるカナダ人医師がいます。


イスラム国はジハードの一環として医療を重視しており、かつてイスラム国入りしたオーストラリア人医師がいることなども知られています。

同動画のナレーションはドクター・マジャルテイニーについて、カナダからヒジュラ(移住、聖遷)してきてソマリアで殉教したと説明しています。

生前のドクターの映像が残されています。


首から聴診器をかけイスラム国の旗と銃をバックにしたドクターは完璧な英語で、不正なるソマリア政府に見捨てられた貧しい人々に無料で医療行為を施してきたと語ります。


治療した人々のほとんどが、病気に侵されているだけでなくひどい栄養失調状態にあったそうです。

神のおかげで、外科手術や歯科治療を必要とする人、赤ちゃんや妊婦などなど様々な人々を助けることができたと語った後で、ドクターは次のように続けます。

「イスラム国の外にいる兄弟姉妹たちよ、特に医師たちよ、我々はあなた方の助けを必要としている。神があなた方に対し『おまえたちは宗教とイスラム共同体に何を提供したか』と尋ねる日に、あなた方は何と回答するつもりだろうか?あなた方は不信仰者たちと背教者たちが昼夜を問わずイスラム教徒たちを爆撃しているのを見聞きしているはずではないか。あなた方に忠告しよう。ジハードに赴くのだ。そして天国の最も高き場所を予約するのだ。急いで乗り物に乗りたまえ。」

ソマリアのイスラム過激派組織といえばシャバーブがよく知られており、先日も隣国ケニアの首都ナイロビで高級ホテルの入った複合施設を襲撃するという大規模テロを実行しました。

しかし当該ビデオで紹介されているように、ソマリアにはイスラム国もいます。

ソマリアでイスラム国が旗揚げをしたのは2015年10月のことであり、シャバーブとの間で小競り合いが続いてきましたが、昨年末ついにシャバーブがイスラム国に対して正式に宣戦布告する動画を公開しました。

この中でシャバーブはイスラム国のことを「ジハード戦士たちを分裂させ弱体化させる病気」と非難し、これを根絶やしにしなければならないと主張しています。

ソマリアのイスラム過激派組織とはいっても、シャバーブがしばしばケニアを襲撃するようにその活動は決してローカルなものではありません。

またソマリアのイスラム過激派組織に参加する戦闘員も、当該動画で紹介されたカナダ人医師のように「グローバル化」しています。

アメリカ司法当局は先週、イスラム国に資金提供をしていた容疑などでミシガン州に住む3人のケニア出身イスラム教徒を逮捕したと発表しました。

うち1人は、ソマリアのイスラム国に参加するため出国しようとしたところを空港で逮捕されたとのことです。

イスラム国入りしようとする外国人戦闘員は、かつてはこぞってシリアそしてイラク入りを目指しました。

ところがシリアへのルートとなってきたトルコが国境警備を厳しくし、さらにイスラム国がシリアのラッカとイラクのモスルという二大拠点を失ったのに伴い、彼らはジハードの地を他に求めるようになりました。

そもそもジハード希望者がシリアやイラクを目指す必然性というのは特にはありません。

彼らはイスラム法によって統治された地に赴き(ヒジュラ)、そこで仲間とともにイスラム教の敵と戦うジハードに身を投じることを目的としているので、シリアやイラク入りすること自体が難しくなった今、行き先を変更するのは必然的ですし、イスラム国当局もそれを勧めています。

今、特に多くの外国人戦闘員が集結しつつある国のひとつとして挙げられるのが、フィリピンやリビアと並んでソマリアであり、米軍も対テロ戦争の一環としてソマリアでの空爆作戦を強化しています。

ソマリアは今や、世界のジハードの最前線のひとつなのです。

2018年5月17日木曜日

インドネシアで相次ぐテロ事件と「インドネシアのイスラム国」

インドネシアでは2018年のラマダン開始前に子供を含む一家6人全員が自爆するといった凄惨なテロ事件が相次ぎました。

①5月8日 ジャカルタ南部デポック刑務所で受刑者10人以上が警官6人を殺害
②5月13日 インドネシア第二の都市スラバヤで教会3カ所を狙い一家6人が3連続自爆、18人死亡、40人以上負傷
③5月13日 スラバヤ近くのシドアルジョのアパート内で一家のうち3人が自爆
④5月14日 スラバヤの警察署を狙い一家5人が2連続自爆、自爆者4人死亡、警官と民間人あわせて10人負傷
⑤5月16日 スマトラ島リアウ警察署が5人の男に襲撃され警官1人死亡、警官2人とジャーナリスト2人が負傷

一連の事件は犯行の残虐性、家族ぐるみの犯行であること、2日間に子供を含む13人もの人が自爆を実行するというあまりにも高い頻度などがあいまって、世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアはもちろんのこと、東南アジア近隣諸国や世界にも衝撃を与えています。

(従来「寛容なイスラム教国」とみなされていたインドネシアに過激なイスラム教思想が広まった背景については拙著『イスラム教の論理』に記してあります。)

上記のうち①②④⑤についてはイスラム国が犯行声明を出しており、インドネシア治安当局も③を含む全ての事件についてイスラム国に忠誠を誓っているテロ組織Jamaah Ansharud Daulah (JAD)の関与を認めています。

JADはインドネシアでイスラム国に忠誠を誓っているテロ組織の中では最大のもので、2015年にアマン・アブドゥッラフマーンAman Abdurrahmanという人物により設立され、2017年にはアメリカ政府によりテロ組織指定されました。(写真はkompas.comより拝借したアマンのもの)


アマンはLIPIAというサウジのイスラム大学のジャカルタ分校でイスラム教とアラビア語を学んだ人物で、2004年にデポックでテロを計画していたとして逮捕されるも、刑務所内における行いがよかった(!)ために2008年に釈放、2010年にはJamaah Anshorul Tauhid (JAT) の指導者であるアブバカル・バーシルAbu Bakar Baasyirとともにアチェにテロリスト養成キャンプを設立、それにより9年の実刑判決を受け、現在も服役中です。

2014年にイスラム国がカリフ制再興を宣言するとアマンは刑務所内でカリフに忠誠を誓い2015年にJADを結成、以来「インドネシアのイスラム国」の実質的指導者とみなされています。

服役中にもかかわらずアマンは2016年ジャカルタ中心部で犯人4人を含む8人が死亡、26人が負傷したテロや、2017年東ジャカルタで警官3人が死亡したテロなど、国内の様々なテロ事件に関わっているとされています。

特に2016年のジャカルタでのテロ直前にアマンが刑務所内から発行した以下のようなファトワー(イスラム法的見解)はインドネシアのイスラム過激派に広く影響を与えているとされています。

「イスラム国に移住しなさい。移住できないならば、どこでもいいのであなたの命をかけてジハードをしなさい。戦うことができない、もしくはその勇気がないならば、それを実行する者に対しあなたの財産を与えることで貢献しなさい。もし財産で貢献できないならば、他者に対しジハードを敢行するよう促しなさい。もしそれすらできないと言うなら、あなたの忠誠にいったい何の意味があるというのだ?」

これはイスラム国中枢部によるジハードおよびヒジュラの呼びかけと基本は共通していますが、より一層プラクティカルだと言えます。

自分でジハードできないならせめて他人にジハードをけしかけろ、といった表現は、イスラム国中枢部ではあまり用いられません。

さて今回の連続テロ事件は直接的にはJADの第二の指導者であるザエナル・アンシャリZaenal Anshariの逮捕によって引き起こされた、と警察は見ています。

それはそうなのかもしれませんが、子供の自爆、女性の自爆、そして一家揃っての自爆というのはインドネシアでは前例がないこと、また一連の事件がラマダン前に実行され、それをイスラム国中枢部も把握していたことなどから、どうしても、インドネシアのテロは新たな局面に入ったと認識せざるをえないように思います。

2018年5月13日日曜日

インドネシアで一家6人が3連続自爆テロ実行:前例なき悲劇の背景にある論理とは

インドネシア第二の都市スラバヤにある3カ所の教会を狙った3連続自爆テロ事件が発生しました。


インドネシアでは4日前に刑務所内でイスラム国戦闘員が武器を奪って複数の警備員を殺すというテロが発生したばかりです。

この時もイスラム国は犯行声明やビデオを出しましたが、今回の連続自爆についてもイスラム国が犯行声明を出しています。



これによると、まずはペンテコスタ教会に対して自動車爆弾による自爆テロを実行、次に聖マリア教会に対して自爆ベルトによる自爆テロを実行、最後にディポネゴロ教会に対してバイク爆弾による自爆テロを実行し、11人を殺害、41人を負傷せしめたとのこと。

各々の場所はについては、STRAITS TIMESのこちらの地図をごらんください。


「インドネシアもテロが頻発するようになってきたな…」とここまででも既に十分に衝撃的ですが、本当に衝撃的なのはテロ実行犯の実像です。

警察発表によると、これらのテロを実行した6人は全員、シリア帰りのひとつの家族の成員であり、15歳と17歳の男兄弟が聖マリア教会を狙ってバイク爆弾で自爆、自爆ベルトを装着した母親が9歳と12歳の娘とともにディポネゴロ教会前で自爆、父親がペンテコスタ教会を狙って自動車爆弾で自爆した、とのこと。

さすがの私も、あまりの壮絶さに言葉を失いました。

ある筋によると、この一家はイスラム国に忠誠を誓っているJAD (Jemaah Ansharut Daulah) の設立者であるアマン・アブドゥッラフマーンのスリーパーセルだったとのこと。

警察は同じくスラバヤにあるカテドラル教会に対するテロを実行しようとしていた人物を拘束、またペンテコスタ教会では爆発前の爆弾を発見したとも発表しています。

さらにジャカルタ警察の報道官は、西ジャワのチアンジュールで同じくJADに属するテロリストと警察が銃撃戦となりテロリスト4人を殺害、2人を拘束したと発表しました。

連続自爆犯一家とチアンジュールのグループとのつながりについてはまだはっきりとしていません。

さらに夜になって、今度は東ジャワ州にあるシドアルジョの警察署近くで爆弾テロがあり、少なくとも1人が死亡しました。

このテロと自爆一家とのつながりも現状では不明です。

イスラム国がカリフ制再興を宣言したのは2014年6月で、それ以降この4年間に世界中で恐るべき数のテロを実行し数え切れない犠牲者を出してきましたが、私の知る限り、一家6人全員が一度に連続自爆テロを実行して果てるなどという前例はありません。

2015年12月にアメリカのカリフォルニアで発生したテロは、イスラム国を支援する夫婦二人が実行したものでしたが、これも非常に珍しい事例です。

兄弟がともに特攻攻撃で果てたり、立て続けに自爆したり、父と息子が連続して自爆するといった例もありました。

しかし父、母、娘2人、息子2人が連続して自爆、あるいはそれに類する事例はないように思います。

私はここで、9歳の娘を巻き添えにしてまで…という情緒的な話をしたいわけではありません。

拙著『イスラム教の論理』に記したように、イスラム国のような過激派は現在、武力で敵を倒すジハードはイスラム教徒全員の義務であると捉えており、そこに女性や未成年者といった例外はありません。

また彼らはジハードを最高の善行と信じ、それを敢行することにより天国に直行できるとも信じています。

「無辜の人々を殺しておいてそんなわけないだろう」とか、「天国なんてあるもんか」という私たちの論理と彼らの論理とは、根本的に全く異なっているのです。

ですから当然、未成年の娘や息子を道連れにして自爆するなんてかわいそう、という感傷など、彼らには完全に無縁です。

この2〜3日中には今年のラマダンが開始されます。

彼らにとってラマダンは「斎戒の月」であると同時に、もしくはそれ以上に「ジハードの月」です。

昨日はパリでもナイフによるテロ事件が発生し、こちらもイスラム国が犯行声明を出しました。

警戒すべき期間はむしろこれから始まります。

2018年5月9日水曜日

インドネシア刑務所内でイスラム国テロ:ラマダン前に世界各地で攻勢をかけるイスラム国

インドネシア警察はジャカルタ南部にあるデポック刑務所で囚人による暴動が発生し、囚人とテロ対策部隊の双方に死傷者が出たと発表しました。

警察によるとこの暴動でテロ対策部隊員5人と囚人1人が死亡、現在テロ対策部隊員1人が人質となっており交渉を続けているとのこと。

この暴動については、イスラム国がいち早く声明を出しました。

まずはデポック刑務所内でイスラム国戦闘員とテロ対策部隊の間で戦闘が発生していると伝え...


次にテロ対策部隊のメンバーを捕虜にしたと伝え...


続けてこの戦闘でテロ対策部隊メンバー10人を殺害したと伝え...


殺害したテロ対策部隊メンバーの映像も公開しました。

(映像は非常に残酷なものなのでここには掲載しません。)

戦闘員らは刑務所内でイスラム国の旗を掲げ...


テロ対策部隊から奪った武器を披露し...



ポーズをきめて集合写真も撮っています。


これはかなり衝撃的な出来事であり、インドネシア警察がイスラム国の関与を否定している事実がそのヤバさを象徴しているとも言えます。

これ以外にもイスラム国は、昨日一日に限っても世界各地でさまざまな「戦果」をあげたと発表しています。

イラクのサラーフッディーンではシーア派民兵を乗せた車両を爆弾で吹っ飛ばし...


 同じくイラクのキルクークでは石油会社職員3人を爆殺し...


シーア派民兵3人を死傷させ...


バグダードでもシーア派民兵8人を死傷させ...


エジプトではラファハでエジプト軍兵士を狙撃して殺し...


ソマリアのモガディシューでは諜報部員を暗殺し...


イエメンのキーファではフーシー族と戦い...


シリアのヤルムーク・キャンプでは戦闘でシリア軍兵士48人を殺害し...


ダマスカスではシリア軍兵士を処刑し...


リビアでは自爆テロでリビア軍兵士13人を死傷させました。


このように主だった攻撃だけでも7カ国の複数箇所で発生しています。

シリアのラッカとイラクのモスルが陥落したことによってイスラム国は完全崩壊し戦闘員は絶滅したと思っている人も多いかもしれませんが、イスラム国はシリアとイラクでも完全崩壊してはいませんし戦闘員も元気に活動しているだけではなく、いまだに世界各地に拠点をもち各々で戦闘員が日々戦闘に明け暮れています。

インドネシアやフィリピンという日本人にとって身近で日本に物理的にも近い国も、そうした「イスラム国活動地域」のひとつです。

イスラム教徒の用いるヒジュラ歴では来週からラマダン月に入ります。

ラマダンはイスラム教徒にとって斎戒の月であるだけでなくジハードの月でもあり、毎年イスラム国を始めとする「過激派」が支持者らにジハードの敢行を熱心によびかける月でもあって、実際深刻な被害をもたらすテロが頻発する傾向にあります。

昨日世界各地で発生した攻撃からは、今年のラマダンも例年通り攻勢をかけるというイスラム国からの不吉なメッセージが読み取れます。

2018年4月19日木曜日

タイにイスラム国拠点構築計画:マレーシア当局が追うタイ人イスラム国戦闘員

マレーシア当局が指名手配をして追っているタイ人イスラム国戦闘員はタイ深南部にイスラム国の拠点を築こうとしている、とマレーシア治安当局筋がチャンネル・ニュース・アジアに語りました。

この人物はAwae Wae-Eya(読めない…)という名の37歳のタイ人。


以前こちらに記したマレーシアでのイスラム国細胞掃討作戦の際逃走した4人のうちの1人で、マレーシア諜報筋は彼こそがこのテロ細胞のリーダーだと見ています。

Awaeはタイ深南部からTelegramやFacebook経由で合計9人のマレーシア人の勧誘に成功し、マレーシアのジョホールにある教会や寺、フリーメイソン施設への攻撃の他、マレーシア警官を誘拐してタイ深南部に連れ帰りそこで殺害する計画も立てていたとのこと。

マレーシア当局は、Awaeはイスラム国指導者であるカリフ・バグダーディーに忠誠を誓っておりシリアとも関係を持っていて、タイ深南部に拠点を構築して世界中のテロ組織からジハード資金を調達することをめざしていると語っています。

マレーシア当局はAwaeはすでにタイ深南部に戻ったとみているものの、タイ当局は公式のコメントを出しておらず、取材に応じたタイ軍の大佐も「Awaeはイスラム国ではないと思う」と述べるにとどまっています。

こちらに記したように、タイ深南部にはイスラム教徒が多く住んでおり中にはタイからの独立を目指して武装闘争を展開する一派もいます。

今年1月にバイク爆弾で3人が死亡したのにみられるよう、2004年からこれまでにタイのムスリムによる暴動や武力闘争による死者は7000人を超えています。

しかし基本的に彼らが目指しているのは民族独立であり、イスラム教徒ではあってもイスラム国のようなカリフ制再興といった超国家的、普遍的イデオロギーを掲げているわけではないとされてきました。

ゆえに、もしAwaeが本当にバグダーディーに忠誠を誓ったイスラム国戦闘員でタイに拠点構築を目指しているならば、これは非常に大きな意味を持ちます。

東南アジアのイスラム過激派の専門家は、タイ深南部のイスラム武装勢力は民族主義的であって基本的にイスラム国のイデオロギーを共有してはいないとした上で、タイ治安当局はこれまでに多数のイスラム国の旗やビデオなどを押収している他、パッタニー県からのイスラム国関連サイトへのアクセス数が非常に多いことなどを指摘しています。

既述のようにだんまりを決め込んでいるタイ政府ですが、タイ首相は奇しくも今日、マレーシアとの間のナラティワート国境に今月末までに「安全地帯」を設けると発表しました。

タイ政府の認識は、タイ深南部の問題はあくまで「国内問題」でありグローバルなテロとは一切関係ないというものであり、その姿勢は一貫しています。

プラウィット副首相もこの「安全地帯」は政府と和平交渉を行っているMARAパッタニーの双方にとってよいものだ、と会見で述べており、これとAwaeの案件とを関連付けてはいません。

一連の事件をマレーシア当局の発表から見直すならば、Awaeという37歳のタイ人ムスリムはインターネットを使ってマレーシア人9人(うち2人はシンガポール在住)をリクルートしジョホールでイスラム国テロ細胞を構築することに成功し、フィリピン・イスラム国のリーダーの側近も仲間に入れることに成功し、資金集めや武器調達、テロ攻撃の作戦を具体的に練るところまでは成功した、ということになります。

繰り返しますが、Awaeは現在も逃走中です。

2018年3月26日月曜日

マレーシアでイスラム国戦闘員389人拘束、日本でも高まるテロの脅威

マレーシア警察は先日、テロや誘拐等を計画していたとしてイスラム国戦闘員とみられる男7人を拘束したと発表しました。


 マレーシア警察とシンガポール警察が協力して実施したテロリスト掃討作戦により、2月末から3月にかけて、ジョホールでイスラム国のテロ細胞を構成するマレーシア人6人を拘束、サバフでアブーサヤフ(フィリピンのイスラム国)のメンバーであるフィリピン人1人を拘束したとのこと。

マレーシア人6人の年齢はリーダー格が37歳で、他に49歳、30歳、25歳、23歳、22歳とかなり若手もそろっています。

このテロ細胞は、非イスラム教徒の礼拝所の攻撃や、警官の誘拐・殺害などを計画していたとされています。

23歳と22歳の若手2人はシンガポールで働いており、外国から銃火器を購入するのが主な任務だったとのこと。

フィリピン人は31歳で、ハピロン亡き後のフィリピン・イスラム国のリーダーと目されるフルジ・インダマの側近であり、マレーシア人テロリストのDr. マフムード・アフマドとも関係があるとされています。

マレーシア警察は今回逮捕された6人を含め、2013年からこれまでにイスラム国戦闘員を389人拘束したと発表しています。

2017年10月にフィリピン軍がミンダナオ島のマラウィからイスラム国勢力を一掃して以降、東南アジアではイスラム国関連の目立った事案は発生していません。

しかし今回のように、イスラム国戦闘員が拘束されたり、テロが未然に防がれたりといった事案は、マレーシアだけではなく、フィリピンでも、タイでも、シンガポールでも発生しています。

拙著『イスラム教の論理』でも言及したように、日本の警察庁が2017年12月に発表した「治安の回顧と展望」では、東南アジアのイスラム過激派によるテロの脅威が今後日本でも高まる可能性について指摘されています。

2018年3月16日金曜日

チュニジア政府はいかに反イスラム的か?:イスラム国の説くイスラム教の論理

イスラム国は週刊誌ナバアの最新版を公開しました。


ナバアは世界中のイスラム国の戦果を伝える週刊誌ですが、日本の新聞でいう社説のようなコラムも記されています。

今週号のナバアのコラムがとりあげているのはチュニジアです。

コラムはまず、チュニジアでは独裁政権打倒後、民主主義が実現され、民主的な選挙によって議会の代表者が選出され、その議会で新憲法が承認された、という経緯を説明した後、その新憲法には神以外の者による立法、神が啓示した規範に基づかない命令が含まれているのみならず、不信仰な制定法の根拠となり、イスラム教のシャリーア(神の法)の規範の改ざんを許容している、と批判します。

そして、背教者たるチュニジア政府が神の法に反して制定した法の好例として、「不信仰者たち(チュニジア政府)は神の法が禁じているイスラム教徒女性と多神教徒男性との婚姻を認めるという不信仰的法規定を制定した」件を指摘します。

コーラン第2章221節に「多神教徒男性が信者になるまでは、あなたがたの女性たちをかれらに嫁がせてはならない」とあるように、神は明示的にイスラム教徒女性と多神教徒男性との結婚を禁じています。

さらにコーラン第4章11節で相続について「男児には女児の2人分と同額」とあるにもかかわらず、チュニジア政府が男女の相続平等を定める法案を提出していること、相続以外でも「男女平等」を実現させようとしていること等を指摘し、その全てが神の法に反していると非難します。

そしてチュニジア政府は民主主義の名の下に、自分たちを選出した一般市民にこうした神の法に反する法を遵守するよう強制しているという点において、独裁政権よりなお一層悪質であると指摘します。

最後にコーラン16章106〜107節が引用されます。

そこには次のようにあります。

「神を信仰した後、不信仰に陥った者、心の中で信仰を堅持しつつ(不信仰を)強制された者は除外するが、不信仰を表明して満足する者、かれらには神の激怒が下り、厳しい懲罰があろう。これはかれらが来世よりも現世の生活を愛しているためである。神は不信仰の民を御導きになられない。」

イスラム教徒は世界のどこにいようと神の法のみに従わなければならないというのは、イスラム教の大原則です。

また、コーランで神が明示的に命令していることや禁止していることについて、それに反する解釈をしたり法を作ったりすることは、イスラム教では厳禁とされています。

これは「イスラム過激派の論理」ではなく、「イスラム教の論理」です。

イスラム教について少しでも勉強した人ならば誰でも知っている、 基本中の基本です。

このコラムにあるように、チュニジアでは2年前に男女の相続分を平等にする法案が提出されましたが、議会内に反対する声が多く、まだ成立してません。

なぜ反対の声が多いかというと、(もはや禅問答のようですが…)コーランで明示的に男の相続人の相続分は女の相続分の2倍だと定められているからです。

反対者が立脚しているのは、イスラム国が立脚しているのと同じ「イスラム教の論理」なのです。

一方相続の男女平等を求める人々もチュニジアには存在しており、 先日の国際女性デーにはそれを求めるデモも行われました。


イスラム国はただ武器をとって滅多やたらに人を殺すだけのならず者集団ではありません。

彼らは常に世界の動向を注視し、分析し、いかに仲間を増やし、行動を起こさせるかについて考えているのです。

2018年3月12日月曜日

シリアで新たなアルカイダ組織結成

先月末、シリアのイドリブで新たな武装組織連合フッラースッディーン(HDと略すことにします)が結成されました。

日本語に訳すと「宗教の保護者たち」といった意味です。

イドリブは現在、HTSとJTSというジハード系武装組織連合間で熾烈な戦いが繰り広げられていますが、HDは反体制派同士の戦いを停止しともに東ゴータで戦火のもとに苦しむ仲間を救済するためにシリア政府軍と戦おうと呼びかけました。


これまでに、ジャイシュルマラーヒム、ジャイシュルバーディヤ、ジュンドゥッシャリーア、ジャイシュッサーヒル等々、イドリブやラタキアの10以上のイスラム系武装組織がHD入りを誓う声明を出しています。




これらはいずれもアルカイダ支持で知られる武装組織であるため、アルカイダからの「公認」はまだなされていないものの、メディアや専門家は「HDはシリアにおける新たなアルカイダ組織だ」との見方で一致しています。

シリアには内戦開始当初からアルカイダ系武装組織が存在しており、2012年以降はヌスラ戦線がもっぱら「シリアにおけるアルカイダ」の役割を担ってきたものの、2017年にはヌスラが自らアルカイダからの脱退を宣言、国際的には未だに「ヌスラ=シリアのアルカイダ」という認識が強いものの、シリア内戦においてはHTSという武装連合を結成し、他の反体制派やシリア政府軍と戦うという、妙な状況になっていました。

アルカイダのイデオロギーの特徴のひとつは、今の指導者であるザワーヒリーが演説でよく言っているように、ジハード組織同士でいがみあうのはやめ、一致団結して敵と戦おうと考える点にあります。

HDが最初に出した声明でもその特徴は確認されます。

共にジハードを掲げシリアでイスラム法による統治を実現させるという目標を共有するHTSとJTSという武装連合が、アサド政権に対して共闘しないばかりか互いを敵として戦っているというイドリブの現状は、アルカイダのイデオロギーとはかけ離れています。

興味深いのは、HD結成後より世界各地からHDを支持するという落書きのような投稿がSNS上などになされている点です。

こちらはインドネシアから。


こちらはインドから。


こちらはソマリアから。


こちらはナイジェリアから。


こちらはバングラデシュから。


これらは、アルカイダのイデオロギーが世界でいまだに求心力を持っていることの表れだと考えることもできます。

2017年10月のラッカ陥落後イスラム国の退潮が顕著になる中、シリア内戦の有力なプレイヤーとして新たに頭角を表すのは、このアルカイダ系武装組織かもしれません。