2018年3月3日土曜日

無神論者vsイスラム教徒:エジプトのトークショーで大波乱

先月エジプトのトークショーで、「オレは無神論者だ」と宣言した若者がスタジオから追放される、という「事件」が発生しました。



 司会者に、「君の考えを視聴者にもわかるように説明してくれたまえ」と促されたこの若者は、「自分は無神論者で、神の存在も信じないし、宗教も信じていない」と述べます。

それを聞いたエジプトにおけるスンナ派の権威アズハルの元副総長マフムード・アシュール師は、文字通り目を丸くして「え?え?え???」と聞き返します。

すると若者は再度、自分は無神論者だと繰り返し、「自分にはきちんと倫理観が備わっていて、社会人としても社会に貢献できているので、宗教など必要としてない」と述べます。

彼はデンマークなどヨーロッパ諸国の倫理性の高さなどについて述べるも、イライラしたアシュール師に「君は仕事をしているのか?」とか「ご両親は何をしている?」などあれこれ聞かれ、「そういった個人情報についてはここで口にする必要はないはずです、自分の考えについて述べる為にここにいるはずじゃないですか?」と答えたことで、師と司会者をさらにイライラさせます。

司会者に「君は本当に宗教や神と完全に決別したというのか?」と聞かれた若者は、「そうですよ」と軽く答えます。

アシュール師に無神論者である理由を説明するよう求められると「神がいるという証拠が全くないからだ」と述べます。

それに対して司会者はただちに、「君は神がいるという証拠がないというが、それじゃあ君を創造したのは誰なんだ?君が人間として今ここにこうして存在しているのはどういうわけだというんだ?!」と突っ込みます。

それに対して若者は、「地球がどのように誕生したかについてはいくつかの説があるが…」と言い始めるものの、それをマフムード師は 「君はいかにして人間になったのかと聞いているんだ」といなします。

若者はこれに対し、「我々の存在を説明づける理論はいくつか存在しており、そのひとつに神が創造した、というものがあります。他にもビッグバンのように…」と話し始めるも、再度司会者が「おいおい君、そんな妙な言葉を使わずアラビア語で話したまえよ、我々はエジプトにいるんだし、エジプトの一般大衆はそんな言葉を言われてもわからないじゃないか」と横槍をいれます。

若者は「でも科学というのは英語で語られるものなので…」と言い淀むも、司会者に「君はいったい、なんの科学について話をしているんだ??」となぞのツッコミを入れられます。

司会者は、「君は混乱して自信を失い、神の存在を否定し、我々の宗教や信条を拒絶している。君はいったい、なんなんだね?!」と興奮。

これに対して若者は、「それは悪いことですか?」と尋ねます。

司会者は「もちろん最悪だよ。君はなにか考えを述べる為にここに来たはずなのに、考えなどないじゃないか。君が述べているのは無神論と不信仰だぞ。私は視聴者に、こんなエジプト人を我々の番組に出してしまったことを謝罪しないといけない。視聴者のみなさん、本当に申し訳ありません。そして君、ムハンマド、我々は君とは一緒にいられない。残念だが、君の考えは不適切であり、そのような破壊的な危険思想をこの場で広めることは認められない!」と一気にまくし立てます。

マフムード・アシュール師は「ムハンマドよ、君には精神科の治療が必要だ」と述べ、司会者も「私は君に、このスタジオから直ちに立ち去り、その足で精神科に直行することをおすすめする」と述べます。

そして「残念だが君の考えはエジプトの若者にとって危険で最悪だ、君はエジプトの若者にとって最悪の見本だ、君ともうこれ以上ここに一緒にいることはできない」と再度退場を促します。

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これはお芝居ではありません。

これは、エジプトというイスラム教徒がマジョリティを占める国において、自分は無神論者だと公言する人間が出現した場合に予想される、最も寛大な反応の例だと言えるでしょう。

拙著『イスラム教の論理』にも記したように、イスラム法においては、神はいないと公言することは背教罪を構成し基本的に死刑が相当と定められています。

エジプトでも先ごろ、ファトワー庁が「SNSを介して無神論が広まらないように警戒しなければならない」と注意を促しています。

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