2018年2月8日木曜日

スカーフは「つつましさ」の象徴なのか?:ファッション誌『コスモポリタン』に大ブーイング


「『コスモポリタン』よ、おまえたちは女性の抑圧を支持するのか?!」


これは、昨日からTwitter上に散見される『コスモポリタン』を批判するツイートのひとつです。

ことの発端は、Macy'sがNew Modest Clothing Lineと称する(明らかに)イスラム教徒女性向けのコレクションを発表したという記事を『コスモポリタン』が掲載したことにあります。


同ラインが「つつましい」服装として提示しているのは、以下のようなものです。





非イスラム教徒で非フェミニストの部外者でしたら、「へえー、イスラム教徒の女性も案外モダンな格好するのね」といった程度のリアクションですむところですが、Twitterで同誌を批判している人々の意見はこうです。


「『コスモポリタン』よ、あなたたちがもしヒジャーブ(スカーフ)をかぶった人をつつしみぶかい女性と呼ぶならば、ヒジャーブをかぶらない人はつつしみがなく、無作法で、下品で、不道徳だということになります。だからイスラム教徒の子供や男性たちが、ヒジャーブをかぶらない女性を売春婦よばわりすることになるのですよ。」

スカーフで頭髪を覆う女性用の長袖や長い裾の洋服を売り出しているメーカーはもちろん、Macy'sだけではありません。

ハイブランドでは、ドルチェ&ガッバーナが2016年にアバーヤ・コレクションを発表していますし…


ファストファッションでは、ユニクロもこんなラインを出しています。


ブランド側は、急成長中のイスラム・ファッション業界に勝機を見出してこうしたラインを売りだしている(だけ)なのでしょうが、たとえばフランスでは閣僚がこれを「女性の抑圧に協力している」と批判するなど、必ずしもすべての人々に歓迎されているわけではありません。

特に今は、先日の記事にも記したように、法律で頭髪を隠して外出することを定められているイランの女性たちが、逮捕されるのを覚悟の上で公衆の面前でスカーフを外す、という抗議活動を続行している最中です。

Macy'sの批判者の中には、こんなことを書いている人もいました。

「イランに出店したら?」


2018年2月5日月曜日

少年兵訓練に食料配布、処刑…:シリアのイスラム国の再活動


イスラム国が2017年10月に最大拠点としていたラッカを失ってから3ヶ月あまり。

シリア国内でのイスラム国との戦いはいまだ継続中ですが、一方でイスラム国は戦闘以外にも様々な活動を再開させているようです。

先週、ダマスカス地域にある少年兵の訓練キャンプの様子が公開されました。

おなじみの一本指ポーズ。手前にうつるのは、いつものように美少年。


馬跳び?


体は少しかたいようです…。


もちろん銃の訓練も。


成績優秀者は表彰されます。



少年兵の訓練というのは、イスラム国の次世代を担う人材が今も着実に育成されていることを示すのに好都合であるため、イスラム国が好んで公開するモチーフのひとつでしたが、軍事的窮地が続いていたこともあり、久々に見た感があります。 

また昨日は、イドリブで小麦を配布する映像が公開されました。

小麦があります。


 なにやら、帳面を確認するおじさんたち。


小麦を袋詰めします。


トラックに載せます。


 神のおかげで必要とする人々に小麦を配ることができます、と説明する人。


食料配布というのは、イスラム国が支配地域で実践してきたイスラム法規定の適用のひとつで、イスラム国は自らが確かに「神の法」による統治を行う主体であるとアピールするために好んで公開してきました。

これもまた、軍事的苦境が続いているうちはほとんど見られなかった様子です。 

イドリブでは、宣教活動も行われているようです。


軍事面でも、ドローンに小型爆弾を積んでシリア政府軍の拠点に落っことしたり…




車椅子にのった戦闘員が自爆攻撃をしたり…


政府軍のスパイとされる人を処刑したり…


一見すると、最盛期と変わらないくらい多様な活動を展開させているかのようです。

もちろん、イスラム国は主たる支配地域を失い、たくさんの戦闘員も失いました。

有志連合によるデリゾールへの空爆も継続中ですし、シリア政府軍はハマーの拠点に対して総攻撃を開始しました。

しかしまだイスラム国勢力はシリア国内に確かに存在しており、「瀕死の状態」でもないのです。

2018年2月2日金曜日

黒魔術とイスラム教:インドネシアのイスラム教徒の多様性


インドネシア警察は先日、夫と娘の遺体が「生き返る」と信じて埋葬せず数年間「同居」していた女性の存在が発覚したと発表しました。


警察によると、ネネン・ハディージャという名の77歳の女性は、2年前に50歳で死んだ娘の遺体と、昨年末89歳で死んだ夫の遺体に布をかけた状態でベッドに寝かせており、周囲にはコーヒーの粉がまかれていたほか、たくさんの香水瓶も発見されたとのこと。

ネネン・ハディージャさんは、「遺体の世話をすれば生き返るだろう」と囁く声を聞いた、と警察に話しているそうです。

名前や運ばれていく棺を見る限り、ネネンさん一家はみなイスラム教徒です。

運ばれる棺

イスラム教においては、死者は終末の日によみがえり最後の審判を受ける、とされています。

死者は土の中に埋葬され、その状態でよみがえりの日をひたすら待つのです。

イスラム教の教義ではもちろん、それ以外のかたちで死者が「生き返る」ことを信じるなど認められまん。

ところが一方では、実際にそれを信じ黒魔術のような行為を実践しているイスラム教徒もいるのです。

イスラム教と呪術信仰やアニミズムが混淆しているのは、インドネシアだけではありません。

アフリカや中東アラブ地域でも、そうした信仰のかたちは存続しています。

魔術や占いの類は、イスラム法では禁じられています。

しかしそれらは一部のイスラム教徒のなかに、信仰の一部としてしっかりと根付いているのです。

私が住んでいたモロッコやエジプトでも、魔術師や占い師の摘発や逮捕は三面ネタの常連でした。

聖典「コーラン」のテキストにひたすら忠実に生きることを「正しい」と信じるイスラム教徒がいる一方で、「コーラン」で明示的に禁じられている呪術を実践しても別に差し支えないと素朴に信じるイスラム教徒もいるのです。