2018年1月23日火曜日

タイの市場で爆弾攻撃:タイのイスラム武装勢力とジハード


昨日、タイ南部のヤラー県でバイクに仕掛けられた爆弾が爆発し、3人が死亡、22人が負傷しました。

犯行声明等は出されていないものの、警察筋によると容疑者はイスラム教徒の少年のようです。

バイクが置かれた場所が豚肉屋の目の前であり、亡くなったのも豚肉屋の女主人と客の男性だったことから、仏教徒を標的にした可能性もあります。

タイは仏教国として知られていますが、ヤラー県、パッタニー県、ナラティワート県、ソンクラー県といった南部には、マレー語を話すイスラム教徒が多く居住しています。

同地域は13世紀からパッタニー王朝というイスラム系の王朝によって支配されていましたが、18世紀末にタイのチャクリー王朝によって征服され、20世紀初頭にはタイ政府の直轄地として併合されました。

同地域では現在に至るまで、タイ政府に不満を抱くマレー系イスラム教徒による暴動や武力闘争が散発しており、2004年から現在までだけでも7000人近い死者を出しています。

昨日の爆弾攻撃もおそらく、その一環として位置づけることができます。

日本の外務省も、既出の4県については渡航を自粛、あるいは止めるよう呼びかけています。


ある研究者によると、タイ南部のマレー系イスラム教徒による武力闘争は、1960年代から90年代初頭にかけての時期と2001年以降の時期では性質が異なるとされます。

彼によると、以前は様々なイスラム系武装グループが各々の目的やイデオロギーを掲げて反政府闘争を行っていたため、相互の連携はほとんどなかったものの、2001年以降はおおむねイスラム教というイデオロギーを掲げるという点で一致しており、ゆえに相互で連携して攻撃を行っている、とのこと。

一方で、国際危機グループが2017年11月に発表したリポートは、タイ南部のイスラム系武装組織はあくまでパッタニー共和国の樹立をめざすものであり、いわゆる「ジハード」ではなく、それゆえにアルカイダやイスラム国といったグローバル・テロ組織に忠誠を誓った組織がひとつもないのだ、と結論づけています。

実際、タイ南部で最大の反政府組織はパッタニ・マレー民族革命戦線(BRN)を名乗っています。

BRNは1984年に3組織に分裂、一部は2013年からタイ政府と和平交渉を初めており、その成果もあって2017年は武装攻撃による死者数がここ13年間で最少となりました。

ヤラーでも、昨日の爆弾攻撃は数ヶ月ぶりのものだったとされています。

ところで私が気になるのは、当該爆弾攻撃についてどこのメディアも「テロ」とは描写していない点です。

私はタイの治安情勢については完全に素人なので、ここからは学術的根拠に乏しい個人的推察ですが、タイ南部で発生するイスラム教徒がらみの治安事件は基本的にすべて(当局によって)「分離・独立運動」の一環と捉えられ、決して「イスラム的イデオロギー」に基づくものではないと判断されるため、当該事件も「爆弾攻撃」であって「爆弾テロ」ではない、と描写されるのかもしれません。

ただ、一般のイスラム教徒である市民らが集う人気の屋台街に爆弾を積んだバイクを置き去りにし、立ち去って爆発させるという昨日の手口は、中東の街中で頻発する爆弾テロと何らかわりはありません。

既出のBRNの一派であるBRN−C(コーディネート派)は、タイ南部に多くのモスクやマドラサ(イスラム法を教える学校)をつなぐネットワークを所有し、そこで過激な、あるいは原理主義的なイスラム教のイデオロギーを広めたり、戦闘員をリクルートしたりしているとされています。

2500人以上の「中東帰り」のイスラム教徒が、タイ南部で活動しているとも言われています。

タイでは2016年8月11日から12日にかけて、各地で8件の爆発事件が立て続けに発生し、4人が死亡、数十人が負傷するという惨事が発生しました。

この時狙われたのは、日本人にも人気の観光地プーケット島と、リゾート島への経由地として知られるスラタニ、欧米人にも人気の観光地ホアヒンなどです。

これらの爆発については、相互に関連しているのかも、また誰が犯人なのかもはっきりしていない(明らかにされていない?)のですが、当局は分離・独立派のイスラム教徒らが背後にいるとみているようです。

モスクやマドラサでイスラム教のイデオロギーを広め、仲間を集い、目的達成のためにはイスラム教徒を殺害することも全く厭わず、人の多く集まる市場などでも攻撃を行い、時には外国人も標的とする。。。

こうしてみると、やっていることは完全にジハードです。

奇しくも2017年11月、タイのプラウィット副首相は「タイに不法滞在している外国人の中には、たぶんイスラム国のテロリストがいる」と発言しています。

今月16日には、パスポートを偽造しイスラム国に接触していたと見られるパキスタン人がバンコク市内で逮捕されています。

もちろん、昨日のヤラーの爆発がイスラム教徒によるテロだという証拠もなければ、南部のイスラム系武装組織がジハード思想を持っているという証拠も、昨年の連続爆弾事件がイスラム教徒の手によるものだという証拠もありません。

しかし様々な事象を表面的に俯瞰すると、なにかいやーな感じがするのは確かです。

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