2018年1月18日木曜日

インドのエビ禁止令:ハラール認証再考


先日インドで、「イスラム教徒はエビを食べてはならない」という法令(ファトワー)が出されました。

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これを発行したのは、ハイデラバードにあるニザーミーヤ学院の大ムフティーであるムハンマド・アッザームッディーン師です。

同学院は142年の歴史を誇る伝統的イスラム法学校。

大ムフティーというのは、そこでもっとも権威のある見解を示すことのできる法学者のことです。

同法令によると、エビは虫と同じ節足動物であって魚ではないため、イスラム教徒は食べてはならない、とのこと。

「食べてはならない」とは言っても、これはイスラム法学上「強く忌避される」というカテゴリーであって、正確に言うならば禁止ではなく、またこれを食べたからといって刑罰を受けるようなこともありません。

このニュースは、インドの他に、エビ大好きなタイなどの東南アジア諸国でも伝えられ、「エビは虫だったのか?!」とちょっとした衝撃を社会に与えていますが、実はエビをめぐる議論も同師の見解も決して新奇なものではありません。


エビなどの魚介類を食べてもいいか(=ハラールか)についてのイスラム法の議論は、非常にややこしいのですが、その原則は「魚は食べてもいい(=ハラール)」というものです。

とすると、次に問題となるのは「エビは魚なのか?」という件です。

同師は「エビは魚ではなく虫のような節足動物である」とみなしたため、「エビは食べてはならない(=ハラーム)」と結論づけたのです。


一方で、歴史的には大多数のイスラム法学者たちが「エビは魚なので食べてもいい(=ハラール)」と論じてきました。


話がややこしくなってきましたが、要するにイスラム教徒はエビを食べてもいいのかダメなのかというと、結論は「どちらでもいい」ということになります。

なぜならイスラム教徒は、エビを食べてもいい、という法学者の見解に従っても、食べてはいけないという法学者の見解に従っても、どちらでもいいとされているからです。

それじゃなんのための議論なんだ?!ということになりかねませんが、実はこうした問題は議論すること自体に意義があるのであり、ハラールなのかどうかを一義的に決定し、その決定を全イスラム教徒に押し付けることなど毛頭意図されていないのです。


イスラム教徒が何なら食べていいのか、何を食べてはいけないかの正解を本当に知っているのは、神だけだと信じられています。

ですからイスラム教徒は、神にはっきりと口にすることを禁じられている(=ハラームだとされている)豚、酒、血、死肉といったもの以外に関しては、自分でよく考え、あるいは自分の信じる学者の見解に従って食べるかどうかを判断すればいいのです。

学者は古典的な問題であれ新奇な問題であれ、必要に応じてイスラム法に立ち返り法令を出せばいいのであって、イスラム教徒からすればオプションが増えるようなものです。

日本でも、東南アジアからの外国人観光客数増加や2020年に東京オリンピックが開催されることなどを受けて、レストランや食品は「ハラール(許可)」認証を受けるべきだという論調が高まっているように見受けられます。

しかしイスラム教の基本ルールはあくまでも「神がハラーム(禁止)だとしたものだけは食べてはいけない」というものであって、「誰か、あるいは何らかの組織がハラール(許可)だと認証したものだけを食べていい」というものではありません。

このふたつは、似ているようで全く異なります。


確かに、公的なハラール認証制度が導入されているマレーシアやインドネシアのイスラム教徒に関しては、ハラール認証を「気にする」人の率が高いと言えるでしょう。しかし世界中すべてのイスラム教徒がそれを「気にする」あるいは「信じる」わけではありません。



イスラム法におけるハラールとハラームの問題は、「ハラール」というマークがついていればオッケーというような、そんな単純なものではありません。

議論の上ではもっとずっと複雑で、そして実践の上ではもっとずっと大らかなのです。

ホウドウキョクの飯山陽のページにも転載されています。 

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